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神戸地方裁判所 平成6年(ワ)759号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、金四億八三〇〇万円及びこれに対する平成四年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

理由

第一  廣見の不法行為について

一  請求原因1の事実及び原告が平成元年六月下旬に、被告に五〇〇〇万円を送金した事実は、当事者間で争いがない。

二  《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

1  原告は、廣見に勧誘され、平成元年三月一日から同月二三日までの間に、被告との間で、オートバックスセブン株、伊藤忠商事株、野村證券株の現物取引を行い、それにより約二四〇万円の利益を上げ、同年三月三一日から、株式の信用取引も行うようになり、同年四月一三日に上組ワラントを約六〇〇〇万円で購入しており、被告との間の証券取引に積極的であった。

2  原告は、平成元年七月三日、その直前に買い付けた投資信託を売却し、廣見の勧めにより、日揮株を、現物取引で一万五〇〇〇株(三七五九万四〇〇七円)、信用取引で合計二万二〇〇〇株(五四七三万円)購入したが、間もなく、日揮株が値下がりしたため、廣見に対し、「野村證券で勧められた銘柄を、初めてまとまった数量購入したのに、最初から値下がりした。一度、上司に会って話を聞きたい。」等と申し入れた。

3  廣見は、上司である長谷川に、その旨を伝え、長谷川は、平成元年七月末ころ、乙山明石店内で、原告と面談し、原告から「野村で初めて大きく買った日揮株なのに大きな損が出た。」などと責められ、損を取り戻すよう強く求められたので、「できる限り頑張ってみます。」という趣旨の返事をした。

4  その後、長谷川は、新発の転換社債やワラントがあれば、廣見に伝えて、原告に勧めるようにした。

その結果、原告は、日揮株の取引で、合計約一八〇〇万円の損失を被ったものの、平成元年九月までに、長谷川の勧めるワラント等の取引により合計約一六〇〇万円の利益を上げ、さらにその後継続した取引により、同年一一月の段階では、原告は、日揮株の損失を解消しただけでなく、差引き合計で、約三六〇万円の利益を上げた。

三  以上の事実が認められるところ、原告は、その本人尋問において、平成元年六月二七日、廣見から、「とにかく明日、外国の投資信託を買うのに、五〇〇〇万円要るんです。大口の客がどうしてもキャンセルになって、ノルマがきつくて、どうか助けてください。これは四、五日か、一週間で解約します。これは手数料ぐらいは損するかもしれないが、これを購入していただいたお礼として、二か月くらい期間をもらえれば三〇〇万円プレゼントします。何とか一度男にしてください。」等と、頭をテーブルに擦りつけるようにして頼まれ、これを承諾して五〇〇〇万円を拠出したとか、同年一一月の時点で、廣見との間の三〇〇万円の利益提供の約束は守られていないどころか大分損が出ていたことから、廣見に対し「人が気持ちで、五〇〇〇万円助けてくれと言うから五〇〇〇万円入金しているのに、あんまりひどいのではないか。一度上司を呼んでくれ。」と責めたところ、廣見の上司である長谷川から「必ず約束は守ります。もう少し時間をください。」などと説明されたと供述している。

しかしながら、右認定のとおり、原告は、平成元年六月二七日以前から、被告とかなり積極的に取引していたのであって、そのころの五〇〇〇万円の拠出が果たして、右供述のような廣見の懇請を受けてのものかは疑問の余地があり、また、平成元年一一月の時点では、総計で約三六〇万円の利益が上がっていたのであるから、この時点で、原告が廣見の約束違反を責めたというのもやや不自然である。

したがって、原告の右供述は直ちには採用し難く、他には、原告主張の廣見の利回り保証による勧誘行為の事実を認めるに足りる証拠はないから、その勧誘行為を請求原因とする原告の本件請求は理由がない。

第二  長谷川の不法行為について

一  《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

1  長谷川は、平成二年一月ころから、乙山本店の店舗を訪れるなどして、かなり頻繁に原告に会いに来るようになり、投資信託等のパンフレットを原告に見せたりしながら、原告に対し、「一年間に銀行金利の倍の一五パーセント資産を増やしませんか。とにかく、うちを信用して欲しい。本当に野村證券はとことん面倒見ますよ。」などと取引の勧誘をした。

原告は、長谷川の話が本当なら非常に有利な資産運用であるが、そのような約束が果たされるのかどうかの不安があったため、長谷川に対し、利回り保証を約する一筆を書いて欲しいと要求したところ、長谷川は、「それだけは勘弁して欲しい。分かれば首で済まない。全体に迷惑をかける。」と言って、これを拒絶した。

2  原告は、平成二年二月初めころ、知り合いの和光証券の営業社員である荒井信(以下「荒井」という。)に、長谷川の勧誘に応ずべきかどうかを相談したところ、荒井は「まあ、野村證券が言うんだったら間違いないと思う。うちなんかよりはるかにいい。」等と答えたため、原告は、一人ではいろいろ心配である等の理由で、長谷川と面談する際に、荒井に立ち会ってもらうように頼み、荒井もこれを承諾した。

3  長谷川は、平成二年三月初めの午後五時ころ、乙山の本店店舗を訪れて原告と面談したが、その場に荒井が立ち会った。

長谷川は、荒井という第三者が立ち会っていることで、やや躊躇したものの、原告に対し、「うちは、とにかくいいものが来る。野村證券を信用してください。少なくとも、銀行金利の倍くらいの金利は、年間稼げます。」と説明し、原告の「年一五パーセント以上の利回りで儲かるのだな。」という趣旨の念押しに対しても、「ええ、そうです。」と答えた。

4  原告は、平成二年三月ころ、知り合いの入江秀夫(以下「入江」という。)から電話があった際、たまたま、長谷川と喫茶店で会う約束があったので、入江にも長谷川の言うことを聞いてもらおうと考え、長谷川と面談予定の喫茶店に入江に来てもらった。その場でも、長谷川は、原告に対し、「絶対損はさせませんから、もっと資金を野村證券の方に預けて欲しい。」と言い、入江に対しても、「私は野村證券の人間ですよ。神戸支店でも個人投資家としては特別な存在にあたる甲野さんに、私は損をさせるはずがございません。」などと言った。

原告は、その場でも長谷川に対し、「それなら、一筆書いてくれ。」と言ったが、長谷川は、原告に対し、「それは勘弁してください。私を信用してください。」と答え、約束の書面化には応じなかった。

5  右のような長谷川とのやりとりがあり、長谷川は、原告に対し、一〇億円ほどのまとまった資金を被告に預けてもらえれば、年一五パーセント程度の利回りで運用できるとの話を何度もしたので、原告は、長谷川の言葉を信じて、同人の投資判断に従って証券市場で多額の資金を運用し、預金金利をはるかに上回る利益を得ようと考えるようになり、平成二年三月三〇日、取引口座に五〇〇〇万円を入金したのを手始めに、同年四月三日、四月二五日、五月三一日、六月一五日、七月九日の五回にわたり、立て続けに各一億円を入金し、同年八月二日には約四億円を入金し、被告との取引額を飛躍的に増大させた。これら入金の大半は、銀行から融資を受けた(借主は乙山)資金によって行われたものである。

6  原告は、荒井から、証券取引を全て長谷川に任せると、仮に一時期儲かっていても、その後わざと損な取引を折り込まれることにより、一年間で帳尻だけ一五パーセントの利益提供をするということに合わされることもあり得るから、証券の売買については一応報告を受けた方がいいと忠告されていた。そこで、原告は、長谷川に対し、原告のためにする注文については、事前に、注文する株式等の銘柄、数量、単価、取引の時期を連絡するように申し入れており、長谷川が全く原告の了解なしに恣に原告の資金で売買を行うということはなかったが、原告は、どの株が値上がりするのかといった相場の状況を特に研究し把握していたわけでもなかったので、長谷川の連絡に係る注文に異議を唱えることもなかった。

また、原告は、時折、自ら知り得た情報に基づいて長谷川に買い付けの要請を行うこともあったが、長谷川は、不適当と判断すれば原告の要請を容れておらず、そのような場合の買い付けの実行も長谷川の判断を介在させて行われたものである。

7  原告の取引額は、平成二年二月及び三月の二か月間の買い付け金額が、現物取引で約五三〇〇万円、信用取引で約三億七〇〇〇万円であったが、同年四月及び五月の二か月間の買い付け金額が、現物取引で約四億七〇〇〇万円、信用取引で約一三億五〇〇〇万円と急増した。ところが、同年八月ころ、イラク軍のクウェート侵入によって株価が暴落し、原告の信用取引には多額の評価損が発生し、信用取引に係る多額の追加証拠金の入金が不可欠な状況となった。

ところが、神戸支店では、原告に追加証拠金を差し入れさせたり、原告からの預り資産を売却するということはせず、かえって、平成二年一一月三〇日以降、支店長の直接の指示により、伊藤喜工作所ワラント、英国ハイデン株などの短期間で利益が出る、一般投資家にはあまり売買のあっせんがされない銘柄の証券の買い付けが割り当てられ、結局、同年一一月から、平成三年四月までの間、原告は、現物取引で約一億四〇〇〇万円、信用取引で約三三〇〇万円の利益を上げることができた。

8  その後も原告は、被告との本件取引を継続したが、平成三年一一月には、いわゆる証券不祥事から証券取引への規制が厳しくなったので、原告は、このまま被告との取引を続けても、証券市場での運用で損失が回復されることもないと思い、最終的に平成四年四月に被告との本件取引を終了した。

9  原告が前記長谷川の勧誘を受けて五〇〇〇万円を被告に入金した平成二年三月三〇日から右取引終了までの間に、原告の被告に対する入金額(原告の支出額)の合計は、一三億二一六四万三九五二円、出金額(原告の収入額)の合計は四億八五二八万九七七六円で、その差額は八億三六三五万四一七六円である。

しかし、右差額の中には、右入金額を資金としない平成二年三月三〇日以前の買い付け有価証券を、同年四月以降に処分して生じた損失分七一七万七四四三円が計算上含まれており、また、他方で原告は、右入金分を資金として買い付けされた有価証券の処分益四七七〇万六四八六円を取得しているから、右原告の入金分について生じた損失は、七億八一四七万〇二四七円(右入金合計額から、右出金合計額、平成二年三月三〇日以前買い付け分の損失分及び右処分益を控除した残額)となる。

10  ところで、長谷川及び廣見は、原告から少なからぬ現金を複数回にわたって受け取っていたほか、しばしば原告から、クラブ等での飲食や家族での高級ホテルでの宿泊などの接待を受けていたものである。

二  以上の事実が認められ、これによれば、長谷川は、大口顧客となりそうな資産家の原告に対し、多額の投資を条件として年一五パーセント程度の運用利益を提供することを約束し、被告との取引を勧誘したことが明らかであり、このような勧誘行為は、旧法五〇条一項三号及び五号に明白に違反する違反行為である。

そして、この種の勧誘行為は、証券会社との私法上の取引に資金を投じようとする者をして、当該資金が証券市場で運用されることによる投機リスクがないものと誤信させ、誤った判断の下に資金拠出を行わせるものであるから、私法上の取引を誘引する際の不法行為を構成する。したがって、長谷川は、違法な勧誘行為によって原告が被った損害について、民法七〇九条による不法行為責任を免れない。

三1  証人長谷川敬洋は、右認定のような利回り保証を一切したことはないなどと右認定と正反対の証言をしているので、同証言について検討する。

2  同証人は、平成二年三月三〇日から八月二日の短期間に集中的にされた原告からの九億五〇〇〇万円もの入金について、これが個人投資家からのものであり、かつ、同証人自身が神戸支店の営業課長であったにもかかわらず、その入金のいきさつに全く関知・関与していないという不自然極まりない証言をしており、その証言自体に信頼感が欠けるといわざるを得ない。

3  証券市場が平成元年末に史上最高値を付けた後、平成二年一月初め以降、それまでの右肩上がりの市況から一転して下落傾向を続けたことは周知の事実であり、このような状況下の同年四月以降、会社経営に携わる原告が、それまでの取引規模を一転して拡大し、銀行融資を受けてまで億単位の資金を市場に投じるという事態は、何らかの特別な事情がない限り容易には理解し難いところである。

原告が、平成二年三月の時点で、証券市場への投資で多額の損失を被り、これをさらなる投資で挽回しようとする動機付けがあったという事情は本件では窺えないし、原告は、老舗の料亭の経営者であって、証券市場への投資で長年暮らしていたものでもないから、長谷川による右認定の勧誘行為に動機付けられて初めて同年四月以降の取引規模の拡大を図ったとみるのが自然であり、右認定に供した原告の供述や証人荒井信及び同入江秀夫の各証言の方がより理に適っているということができる。

4  さらに、原告については多大の信用取引評価損が発生しながら、追加証拠金が必要な時期にこれが要求されないで、逆に支店長の指示で短期に利益の上がる銘柄の買い付けが行われていること、長谷川が原告から現金まで贈与されていることといった事情は、単に原告が個人の大口投資家であるという理由だけでは説明し難く、やはり、原告と長谷川との間の特別な約束の存在を窺わせるものと考える方が適当であり、このような事情も、証人長谷川敬洋の証言の信憑性を著しく減殺するものといわなければならない。

5  したがって、右認定に反する証人長谷川敬洋の証言は採用し難く、同証言と同様の《証拠略》はいずれも採用し難いのであって、他には右認定を左右するに足りる証拠は見当たらない。

第三  被告の責任

一  証券会社の社員が行う、顧客に対する証券取引の勧誘は、証券会社の事業の執行の範囲内に属するものであって、長谷川の不法行為(勧誘行為)も、証券取引の勧誘の一環としてされた、被告の業務と密接な関連を有するもので、その外形からみて被告の事業の執行の範囲内に属するものである。

二  もっとも、被用者の取引行為がその外形からみて使用者の事業の執行の範囲内に属するものと認められる場合でも、取引の相手方において被用者の行為がその職務権限内において適法に行われたものでないことを知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、相手方は使用者に対してその被用者の不法行為に基づく損害の賠償を請求することはできないというべきである。

確かに、原告は、証券取引において常に一定の利回りを確保することが非常に困難であり、長谷川の勧誘の際の言葉が余りにもうまい話に過ぎ、証券会社が本当に利回り約束を実行してくれるのか疑問を抱いたからこそ、後日のために、長谷川に対し、利回り約束を書面化することを求めたものである。そうだとすれば、原告が、長谷川の勧誘行為が違法であるとか、これが同人の本来の職務権限に属さないということについて、全く過失がなかったとまではいえない。

しかし、《証拠略》によれば、平成二年当時、一般投資家である原告が、被告社内において、顧客に対する利益提供約束をして勧誘を行うことが、内規で厳しく禁止されていたのか、それとも実際には黙認されていたのかを正確に認識するのは困難であったと認められるし、長谷川が単なる営業課員ではなく、神戸支店の営業課長という責任のある地位にあったことをも考慮すれば、長谷川の勧誘行為が、その職務権限外で違法に行われたことにつき、原告に、故意又は重大な過失があったとは認められない。

三  したがって、被告は、民法七一五条一項により、長谷川の不法行為によって原告が被った後記損害を賠償する責任を負う。

四  被告は、原告の損害賠償請求を認容した場合には、旧法下での取引についても損失補填を禁じた新法五〇条の三第一項の趣旨に反し、公序良俗に反する結果を招来するので、被告には使用者責任が認められないと主張する。

確かに、本件のように、新法施行(平成四年四月一日)前にされた利回り保証の約束による勧誘に起因して顧客が証券取引上被った損害につき、不法行為に基づいてその賠償を請求する場合には、利回り保証の約束による勧誘を行った証券会社の被用者と、右勧誘を信じて取引を行った顧客の双方の不法性の程度を比較し、顧客の不法性の程度がより強く、損害賠償請求を認容することが公序維持の観点から相当でないと認められる場合には、認容すべきではないと考えられる。

しかし、本件においては、前記認定のとおり、被告の被用者である長谷川が、何度も積極的に利回り保証約束を申し向け、原告に従前よりも多額の資金を投入して証券取引を行うよう勧誘したのであって、原告の方が自ら積極的あるいは強引に特別な利益の提供を求めたわけではないから、長谷川の不法性の程度が極めて高いといわざるをえず、本件において被告の使用者責任を認めても、新法五〇条の三第一項や民法七〇八条の趣旨に反するものではなく、被告の右主張は採用できない。

第四  損害について

一  被告との取引によって生じた財産的損害

前記認定事実によれば、原告は、長谷川の勧誘行為がなければ、銀行借り入れをしてまで平成二年三月三〇日以降多額の資金を拠出し、投資判断を長谷川に委ねてまで、被告との取引を飛躍的に拡大することはなかったと考えられるから、右資金拠出によって行われた取引(平成二年四月一日以降、平成四年四月までの原告の計算で行われた取引)の結果、被告に対する入金分について原告に生じた損失(売買差損)七億八一四七万〇二四七円は、その全額が、長谷川との不法行為と相当因果関係に立つ損害ということができる。

なお、右取引中には、一部、原告の要請に基づくものが含まれているが、そのような取引であっても、結局は、長谷川の投資判断を介在させないで行われたものではないから、右相当因果関係の判断を左右するものではない。

二  慰謝料について

《証拠略》によれば、原告は、借金をしてまで投じた多額の資金を失い、相当の精神的な痛手を受けたことが明らかであるが、本件における原告の財産的損害と精神的苦痛は表裏一体のものと考えられ、財産上の損害につき法律上認められる賠償を受けてもなお、これとは別に慰謝料の支払を命じなければ償うことのできない性質の精神的損害が原告に生じたとまでは認め難い。

三  弁護士費用について

原告が、本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人に依頼し、それに伴い報酬の約束をしたことは、弁論の全趣旨から明らかであるところ、本件事案の性質、審理経過、後記四で認定した額等を考慮すれば、長谷川の不法行為と相当因果関係に立つ弁護士費用相当の額は、二三〇〇万円と認められる。

四  過失相殺について

前記認定のとおり、原告は、長谷川に対して利回り保証の約束を書面化するよう求めた際に、被告から解雇されるなどして書面化を固辞されているのであって、長谷川の勧誘が単に被告の営業実績や被告の信用力を過大に吹聴しているだけでなく、かなりいかがわしいものであることを認識し得たはずであり、高利回りの文句にまどわされたとはいえ、やはり、自分の落ち度で投資判断を他人に委ねて証券投資に資金を投じたものといわざるをえない。このような事情に加え、本件に現われた諸事情を勘案すれば、右一の損害発生の端緒にかかわる被告の落ち度を斟酌し、右一の損害を相当範囲で減じ、被告の賠償すべき部分を四億六千万円とするのが相当である。

第五  結論

以上の次第で、本件請求は、第四の一のうち四億六千万円及び第四の三の二三〇〇万円の合計四億八三〇〇万円並びに不法行為の後である平成四年五月一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

よって、右の限度で原告の請求を認容することとし、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹中省吾 裁判官 橋詰 均 裁判官 鳥飼晃嗣)

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